2015年12月29日

強制法入門


都数夏合宿で発表した「強制法入門」のレジュメを公開します。実際の発表でしたような解説も説明として書き加えたかったのですが、どうもうまくいかなかったので、そういうのはまたブログ記事として書こうかなと思います。あくまでも強制法の雰囲気を伝えるために書かれたものなので、強制法を真面目に勉強したいという方は参考文献をどうぞ。


[追記]2016/2/21に多数の誤植訂正などを行いver 2.0を公開しました。以前と比べてかなり間違いは減ったと思いますが、誤植などを見つけた方は教えてくださるとありがたいです。
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2015年12月28日

巨大基数とは何か(3)


お久しぶりです。前回巨大基数の存在はZFCから証明できないどころかその無矛盾性すら示せないことを書きました。今回はそんな巨大基数を考える理由についての話です。巨大基数を考えるモチベーションを2つの観点から説明しようと思います。今回の記事は未定義語がたくさん出てきますがあしからず……。

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1. 無矛盾性の強さを測る基準としての巨大基数

巨大基数は弱到達不能基数、強到達不能基数以外にも色々な種類のものが考えられています。例えばMahlo基数、弱コンパクト基数、可測基数、Woodin基数、超コンパクト基数、膨大基数などなど。今ここで挙げた巨大基数の存在の無矛盾性の強さは後になればなるほど強くなっています。つまり、
Con(ZFC+膨大基数が存在)$\Rightarrow$Con(ZFC+超コンパクト基数が存在)$\Rightarrow\cdots\Rightarrow$Con(ZFC+Mahlo基数が存在)$\Rightarrow$Con(ZFC+強到達不能基数が存在)$\Rightarrow$Con(ZFC)
となっています。逆は言えません。また、このような無矛盾性の強さはほとんど巨大基数の「大きさ」と一致しており、例えば$\kappa$が可測基数ならば、$\kappa$は弱コンパクトであり、Mahloであり、強到達不能です。今挙げた例以外にも巨大基数はありますが、それらも同様に無矛盾性の強さで並べてみると、不思議なことにほとんど一直線に並びます。(Kanamoriの『巨大基数の集合論』の巨大基数の表を見てみましょう!)この巨大基数のなす無矛盾性の階層は、ZF(C)+$\phi$というような公理系の無矛盾性の強さを測るうえでの基準となります。いくつか無矛盾等価の例を挙げてみましょう。

定理(Goedel, Cohen) Con(ZFC+連続体仮説)$\Leftrightarrow$Con(ZFC+連続体仮説の否定)$\Leftrightarrow$Con(ZFC)
定理(Solovay, Shelah) Con(ZF+「すべての実数の集合はルベーグ可測」)$\Leftrightarrow$Con(ZFC+強到達不能基数の存在)
定理(Woodin) Con(ZF+決定性公理)$\Leftrightarrow$Con(ZFC+Woodin基数が無限個存在)

このような無矛盾性証明によって様々な命題の無矛盾性の強さが巨大基数を通じて分かるわけですから、巨大基数を考えるありがたみがひしひしと感じられます。もちろん、これらの無矛盾性証明は全く容易ではなく、実際、いまだにその無矛盾性の強さが不明な重要命題(Martin's Maximum)も存在します。

2. ZFCを強化するような仮定としての巨大基数

ZFC上の独立命題は色々とありますが、それらの中でも巨大基数の存在仮定(以後単に巨大基数公理とよびます)はZFCを強化する「正当な」仮定として重要です。この正当性の背景には矛盾のない範囲でできるだけ大きな集合、多くの集合の存在を認めたいという思想があります。この思想について詳しく語ることは大きく自分の能力を超えているので諦めることにして、巨大基数公理を認めることで起こる嬉しいことについて紹介しましょう。例えば、$V\neq L$という命題について考えてみます。ここでいう$V$とはすべての集合のクラス$\{x:x=x\}$のことで、$L$とは構成可能宇宙とよばれるZFCのモデルのひとつです。$L$はZFCのモデルの中でも「最小」のものであり、なるべく多くの集合の存在を認めたいという立場からすると、$V=L$ということはあまり考えられず、$V\neq L$を示したいという気持ちがあります。ただし、無矛盾性の観点からいえば、ZFC+$V=L$もZFC+$V\neq L$もZFCと無矛盾等価です。つまり、ZFCでは$V\neq L$を示すには力不足なのです。この状況は巨大基数公理によって打破できます。

定理(Scott). 可測基数が存在すれば、$V\neq L$である.

このように、成り立ってほしいがZFCでは示せない命題というものがあり、それらはしばしば巨大基数公理から導かれるのです。記述集合論を勉強するとそういう例がたくさん出てきます。

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以上、なぜ巨大基数を考えるのかということについて簡単に話しましたが、「巨大基数公理はどこまで無矛盾だろうか?」「巨大基数はどこまで存在するのだろうか?」という疑問は残ります。これはかなり重要な問題ですが、集合論者の間でも統一された見解があるわけではないようです(と言っても可測基数の存在とかそういったマイルドな巨大基数公理の無矛盾性を疑っている人はほとんどいないと思うのですが)。集合論がさらに発展すればひょっとするとこの疑問も解決されるかもしれませんが、どういう決着がつくのかは見当もつきません。

この記事を書くにあたり、Kanamori『巨大基数の集合論』と薄葉・藤田『現代集合論における巨大基数』を参考にしました。特に後者の記事は一度読んでみることをお勧めします。

[終わり]

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タグ:集合論
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2015年11月23日

巨大基数とは何か(2)


前回の記事では、弱到達不能基数と強到達不能基数の定義をして、これは巨大基数の例であると言いました。そして巨大基数とは「ZFCでその存在が示せないほど」大きな基数を指すと言いました。この意味するところについて説明します。前回と同様、この記事においてはすべての結果がZFCからの帰結です。ですから、定理で単に「示される」といえばZFCから帰結されることを意味します。まず1930年にゲーデルによって示された不完全性定理によって次が成り立つことを断っておきましょう。

定理1. ZFCが無矛盾ならば、ZFCから証明も反証もできないような命題が存在する。特にZFC自身の無矛盾性はZFCからは証明することができない。実は同様のことがZFCについてだけでなくZFやその拡大についても成り立つ。

以降しばしば「ZFCが無矛盾ならば」という仮定をしなくてはなりません。ZFCが無矛盾であることは、定理1によりフォーマルには証明できないにしても、これまでの歴史や諸結果によってかなり保証されているので、この仮定は単なる枕詞だと思ってくれてかまいません。また、以降ある公理系Tが無矛盾であることを表す文をCon($T$)と書くことにします。弱(強)到達不能基数と無矛盾性に関しては次が示されます。

定理2. Con(ZFC)$\to$Con(ZFC+弱(強)到達不能基数が存在しない)
系. ZFCが無矛盾ならば、弱(強)到達不能基数の存在を示すことはできない。

巨大基数という言葉はフォーマルな定義を伴ったものではなくて、この系で主張しているような意味でZFCでは存在を示せないほど大きい基数のことを指しています。いままでにいろいろな巨大基数が考えられましたが、それらは全て弱(強)到達不能基数
になっているので、ZFCからその存在が証明できないことがわかります。ということで実は弱(強)到達不能基数というのは巨大基数のなかでも最小の部類なのです。

次に問題になるのは巨大基数の存在の無矛盾性は示すことができるのかということです。

定理3. 弱(強)到達不能基数が存在すれば、Con(ZFC)が示される。

定理1と3を使って次のような議論ができます。ZFCにおいてCon(ZFC)$\to$Con(ZFC+弱(強)到達不能基数の存在)が示されたとします。すると定理3から「ZFC+弱(強)到達不能基数の存在」という公理系においてCon(ZFC+弱(強)到達不能基数の存在)が示せたことになりますが、定理1より「ZFC+弱(強)到達不能基数の存在」は矛盾します。最初の仮定よりZFCも矛盾します。ゆえに次が言えました。

定理4. ZFCが無矛盾であるとする。このときCon(ZFC)$\to$Con(ZFC+弱(強)到達不能基数)は示せない。

つまり、巨大基数の存在が矛盾しないことを確かめるのはあきらめなくてはなりません。

以上をまとめましょう。ZFCが無矛盾だとすれば、
・「ZFC+巨大基数が存在しない」は無矛盾なので、巨大基数の存在はZFCから示すことができない。というよりそういうものを巨大基数という。
・「ZFC+巨大基数の存在」が無矛盾であることはZFCから示せない。

この結果だけみれば巨大基数は存在すらあやしく考える意味が分からないかもしれませんが、実際のところ現代集合論では巨大基数の理論は必須です。その理由はまた次回。
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タグ:集合論
posted by Eureka GAP at 17:18| Comment(0) | 数学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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